■農作物の「高温障害」の真相は自然現象ではなく人災だった!?
この数日、テレビでは「高温障害で不作に陥った」と嘆く農家の姿が頻繁に映し出されている。
この数日、テレビでは「高温障害で不作に陥った」と嘆く農家の気の毒な姿が頻繁に映し出されている。
だが、批判を恐れずに正直に言ってしまうが、映像に登場する農家の方は、設備・知識・技術いずれにおいてもニ流・三流のレベルの方々が多い。
被害を嘆く農家のハウスをテレビの映像から垣間見ると、利用しているハウスの構造設計、ビニール資材の選定、遮光・換気・灌水の設備構成など、どう見ても高温環境に対応する工夫が根本的に不足しているケースが多い。
確かに今年の暑さは異常かも知れないが、問題なのは「暑さ」ではなく、「暑さへの備え」ができていない点にある。
一流の技術レベルの農家は、同じ気象状況下でも、良質の農産物を栽培し出荷している。
でも、そのような優れた農家は、テレビには登場しない。
テレビが報道したいのは、温暖化の影響で被害を受けている、悲劇の農家だけだからだ。
つまり、どんな農家でも高温の影響は等しく受けているが、農作物の「高温障害」は自然現象ではなく、栽培している農家の技術と経営のレベルにあり、人災なのである。
▼そもそも日本の施設園芸の施設は「冬専用」
そもそも日本の施設園芸のルーツは、1870年の開拓使官園(東京・青山)に設けられた西欧式のガラス温室にさかのぼる。
以後、日本は一貫して、オランダをはじめとするヨーロッパの低日照・低温地域の施設園芸技術をベースに発展してきた。
◸日本とオランダの日射量と積算温度の比較
・日射量▸東京:4500(MJ/m²)/オランダ:1300(MJ/m²)
・積算温度▸東京:3000(GDD)/オランダ:1500(GDD)
つまり、その設計思想は、
・太陽光をいかに効率よく取り込むか
・室温をいかに保温・加温するか
という「寒さ対策」が前提なのだ。
これを日本の猛暑にそのまま適用すればどうなるか?
結果は明白である。
今日の農作物の「高温障害」の現状は、明らかに、日本の農政、農学者、技術者のミスリードにある。
そして、未だに方向天転換できずに、ミスリードをし続けている。
▼北海道の高断熱住宅は冬は天国だが夏はに地獄
これは住宅でも同じ現象が起きている。
たとえば北海道などの寒冷地では、冬の断熱対策として2重窓・断熱材・気密性の高い構造が当然とされている。
冬は快適だが、この高い保温性が、夏には裏目に出る。
夏場、室内に一度熱がこもると、クーラーなしでは外へ熱が逃げず、まるで断熱されたサウナになる。
まさにこの構図と同じことが、今の日本の施設園芸でも起こっているのだ。
▼スノータイヤで猛暑を走る愚かさ
ヨーロッパ式の温室設計は、「冬の冷気に打ち勝つための知恵」である。
それを、日本の真夏に使えば、温度がこもり、湿気が滞留し、作物は焼けて枯れていく――
当然の結果だ。
これは、スノータイヤで真夏の高速道路を走るようなものである。
晴天の高温時にはハンドリングが悪化、雨天時にはハイドロプレーニング現象とブレーキ性能が落ちるリスクが高まる。
交通事故=高温障害が起きないわけがない。
▼夏用の農業設計が日本には極僅か
深刻なのは、こうした「夏仕様」の農業設計が、日本には殆ど存在していないという事実だ。
高温に強い品種の開発、暑熱環境に適した肥料設計、液肥を前提とした施肥体系、遮熱・反射型資材の活用など、こうした研究が圧倒的に不足している。
農学者やJAの技術者の多くも、相変わらず「冬場の栽培」の延長線上で技術指導をしており、夏場の設計を体系的に語れる専門家がほぼ不在というのが実情である。
スキーやスケートのコーチに、サーフィンやマラソンを教えさせているようなものだ。
▼本気で高温障害の対策をするならば、発想を「酷暑モード」へ
暑さに適応するためには、中東や乾燥高温地帯に学ぶべきだ。
実際、イスラエルやUAEでは以下のような技術が既に当たり前になっている。
・高軒高構造による熱排出構造に優れたハウス
・乱反射タイプの被覆材
・遮光率の高い遮光カーテン
・循環ファン+ミスト冷却施設
・液肥を主体とした施肥体系
・パッド&ファン冷却システム
・高温耐性に特化した品種開発と品種利用
こうした「夏型栽培設計」の知見を、日本は本格的に導入しなければならない。
▼今年の酷暑が目覚めの年になることを願う
今年(2025年)の酷暑は、例年以上の高温障害をもたらしている。
それを単なる「異常気象」と片づけるのか、それとも設計思想そのものが間違っていたと認めて体制を見直すのか。
どちらに舵を切るかで、日本の農業の未来は大きく分かれる。
今の日本の農業に必要なのは「灼熱仕様」の日本式栽培技術の創造であることには間違いない。
すでに登録済みの方は こちら